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​introduction

 この世界は、一度滅んでいる。
 言葉の綾というわけではなく、それは歴史的書物に書かれたただの【現実(リアル)】である。
 その昔、この大陸はひとつなぎの大海原に浮かぶ土の島であったらしい。しかし、原因不明の大災害が世界を襲い、その島は一夜にして約8割を海の底に姿を隠した。後にこの大災害はとある聖書になぞらえて【大洪水】と呼ばれるようになった。
 現存の生態系に大打撃を与え、数多くの種を絶滅へと追いやった大事件であったが、中でも【人間】という種族は、その数をあまり減らすことなく乗り切って見せた。
 生き残った人々は自分たちの知恵や、組織性や、なにより他人を思いやるという【感情】に歓喜した。しかし、それは泡沫の夢であった。
 ただでさえ元々の生活空間であった大陸ですら窮屈な生活をしていたのである。それがたったの2割になってしまった以上、多く生き残ってしまった全人類を許容できるはずはないのである。
 その現実に直面した人間は、平和のぬるま湯に浸かりきった【牙】を、隣人にむいた。
 他人をけ落とし、騙し、果てには殺し、【自分】という個を生かすため躍起になったのである。
 それはある意味【大洪水】以上の大混乱になった。前代未聞の犠牲者を出し、数年間にも及んだその争いは、6人の【技術者】によって終止符を打たれることになる。

 「横に拡げられないのなら、縦に拡げればいいのではないか」

 彼らは機械工学の知識を持っており、それを駆使することで現状を改善しようと考えたのである。
 もちろん最初は夢物語だと誰もが一蹴して聞こうとしなかった。しかし彼らはそんなことはお構い無しに、製図台で図面を引き、実験を重ね、重機などはほとんど海の底へ消えてしまったために人力で作業を始めた。
 現状を改善、と言ったら聞こえはいいが、つまるところ【科学者】や【技術者】と言った類の人間は、【己の理論がどこまで通じるのか、あるいは実現できるのか】ということを追い続ける【エゴイスト】である為、他人がどう思おうが関係はなかったのである。

 黙々と作業を続ける彼らに何も思わない人間の方が稀有であった。ひとり、またひとりと彼らに協力することに名乗りをあげる人間が増え、最後には生き残った大半がその実現に向けて尽力した。

 そしてそれから何年、何百年と月日は流れ――

© 2017- izumi soya

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