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 重層大陸【ミスリル(宿り木)】第五区画三層。
 【大洪水】によって一度は完全に0に戻った文明であったが、今では旧世界歴18世紀半ばまで復活した。
 街は古い洋風な建造物と蒸気機構が歪に、それでいて自然と調和の取れた外観に落ち着いている。
 そこかしこで蒸気が上がり、活気に満ち溢れたとある大きな宿場町である――

 「くっそ、あのじじい1回脳みそに鉛弾くらって人生リセットした方がいいんじゃねぇのか」

 そんな街を、誰もがぎょっと振り向くようなセリフを吐きながら闊歩する少年が1人。
 年の頃は16といったところか。少し童顔な顔立ちのせいか、もう少し若く見られることもありそうではある。シワのよった眉の下の青灰色の瞳も、今は怒りによってその赤髪と同じ色に染め上がっている。
 「大体人遣いが荒いんだよ、成人してないガキにこんなお使いさせんじゃねーよ」
 手に持った紙袋はたくさんの野菜や果物――に隠れて、大量のタバコやら酒、そして銃器やその消耗品(弾)がざっくりと入っている。
 先程も述べたとおり、この少年、言動に反して顔立ちが些か幼いためか、売店の店主に心配されることが多々ある。行きつけの店に至っては、「お使いか坊ちゃん」と笑いながら子供扱いされる始末である。
 16歳と言えば一般ではまだ【子供】の範疇であるが、こと彼に至っては普通の16歳より少し経験値が高い。自身が童顔なのも理解しているのもあるせいか、子供扱いされることにいらだちを覚えてしまうのである。
 ことの原因である彼の父の嫌がらせは生まれてこの方日常茶飯事なため、慣れていることには慣れているのだが。

 そんな彼の心境とは裏腹に、今日も宿場町は活気で溢れかえっている。彼が横を通り過ぎる度に、
 「おや、こんな所まで買い物かい?」
 「お、身長は伸びたのか坊ちゃん」
 と度々声をかけられる。その度律儀に「あぁ、ちょっと野暮用もあったしな」「大きなお世話だクソッタレ」と返す。
 派手な見た目とその口調からは感じられない人望を彼――ランディ·ギュスターヴは持ち合わせていた。
 この宿場町、いや、この【第五区画】はその階層全域にわたって、彼のホームグラウンドなのである。


 その数時間後、同区画五層。
 買い出しと、彼のファミリーと繋がりのある人物達に顔だしや取引を行ったあと、彼のファミリーの本邸へと戻った彼は、未だかつてない驚愕をその目に映していた。
 「――は?」
 手に持っていた紙袋を落とさなかっただけでも僥倖と言えよう。それほどの大事件である。

 ギュスターヴファミリーの本邸は文字通り、――半壊していた。

© 2017- izumi soya

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