top of page

conclusion

 
 後から聞いた話だが、ヨゼフが属していたガルドーネファミリーは壊滅したらしい。
 壊滅、と言っても首領と片手で数える程度だが構成員も生き残っているので全滅という訳では無いが、少なくともこの第五区画からは尻尾をまいて出ていったらしい。
 ランディは、「あのクソジジイの手のひらで踊らされてたかと思うと腹が立って仕方が無い」と心底嫌そうな顔で多くを語ろうとはしなかったので、ルカはそれ以上追求はしなかった。
 ただ、彼らは本気で敵に回すと死ぬより怖い目に合うという事だけは、心にとどめておくことにした。

 ルカが正式にギュスターヴの、正確にはランディのファミリーになって5日が過ぎた。
いつもならランディと行動を共にしてるルカだったが、今日は珍しく彼とは別行動をとっていた。
 第五区画3層。この数日ですっかり歩きなれた宿場町を、ルカは足早にかけていた。
 しっかりとルカ用に仕立てあげられた服装に身を包み、伸び放題だった髪も、この辺りではあまり見かけない東洋系の顔立ちの男-ランディにツキヒトと呼ばれていた-が文句を言いつつ綺麗に切りそろえてくれた。
 ランディにもらった【タグ】付きのリボンは、ヘアバンドとして頭につけている。
 8日前にヨゼフらの暴行でつけられたアザや傷も跡を残すことなく綺麗に完治した。ただひとつだけ、その細い首には未だ包帯が巻かれていた。
 自分でも思った以上に深い傷だったらしく、ここだけは一生跡が残ってしまうとのことだった。
 別にいいと、ルカは思う。だってこれはあの日のことを忘れないための戒めであるのだから。
 ルカが今日3層にやってきたのは、言うなればランディの【お使い】である。ただそれは使いっパシリというわけではなく、約束を果たすためである。

 言われた通りの場所にたどり着くと、そこには数日前ランディに腕時計制作を依頼した大男が待っていた。
 近寄っていくと、彼の方から声をかけてきた。
 「おう坊主か、ディー坊はどうしたんだ?」
 大きな男の人は苦手だ。相手にはなんの敵意がないとわかってはいてもどうしても身構えてしまう。
 「えっと、またちょっと首領の尻拭いのために走り回ってて……」
 そういうと彼は「まーたヤンチャやってんのかあの人は」と空を――見上げた先にある上層の底を見上げて笑った。
 「なので、僕が依頼の腕時計を届けに来ました」
 ルカはそう言って抱えていたカバンから一つの小箱を取り出した。中には依頼通り腕時計が入っている、が。
 「おぉ!さすがディー坊だぜ、これなら嫁さんも喜んでくれる」
 受け取った大男は嬉しそうにその小箱を受け取るが、対してルカは居心地悪そうに顔を俯かせる。どう切り出せばいいかタイミングを見計らっていたが、ついに口を開く。
 「あ、あのごめんなさい!その時計、実は最後の仕上げだけ僕がやったんです…!」
 ルカのその言葉を聞くと、大男はその理由を尋ねてくる。
 「設計とか組み立てとか、全部ランディがやったんですけど、最後の最後であいつ他に急用ができたからって僕にやらせたんです……もちろん隣で見てもらったし、最終確認とかでも不備は無かったので大丈夫だとは思います…!」
 ルカは「絶対無理!!」と断固拒否したが、ランディに押し切られてしまったのだ。
 今になって思えば絶対自分の趣味を理解させようとぶん投げたんだろうと思ったが、断りきれなかった自分に非がある。
 「ごめんなさい」と再度頭を下げて大男の返事を待った。彼はランディの腕を見越して依頼したのだ。素人で子供の自分がいじったと知れば彼でなくとも大抵の人間は怒るだろう。
 ―間違いなく怒られる。そして怖そう。
 身を固くしながらその時を待ったルカだったが、大男の反応はルカの予想の斜め上をいったものだった。
 「はーんそうだったのか!坊主も器用なもんだ、初めてでこんなに出来るなんてな。素人目の俺から見ても凄いと思うぞ!」
 大男はそういうと、ルカの頭をわしわしとこねくり回す。
 「ありがとうな、坊主」
 彼はそういうとこのあとの仕事を終えたら渡しにいくだとか、依頼料の話だとかを話し始めたが、顔を上げたルカの表情を見るとその見た目では想像もつかないくらいに狼狽えた。

 この10年間で初めて他人に感謝された少年は、生まれて初めて涙で頬を濡らしていた。

 彼の感謝が嬉しかったから、というのは純粋な理由ではない。いや、それも理由の内ではあるのだが。
 ルカはその瞬間、既にこの世にいないはずの妹の声が、風に乗って聞こえた気がした。



 【お兄ちゃん、今までずっとありがとう――】と。

© 2017- izumi soya

bottom of page