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愚者00
3
第五区画三層。
つい数時間前来た場所にまた戻ってこようとはランディは夢にも思わなかったであろう。
案の定先ほど顔を合わせた面々とも鉢合わせ、その度に【なんでまた?】と問いかけられる始末である。しかも今回は見知らぬ子供を連れてである。
ギュスターヴファミリーの首領の息子は1人とこの区画の住人であれば誰でも知っていることなので、子連れの姿はますます住民を動揺させた。
その視線を振り切りやってきたのは、彼が度々根城にしている古い時計店であった。
「…どうして同じ屋敷に行かないんだ」
エルヴィンに意見してまで生かして連れてきた襲撃者―移動中にやっと聞き出した名前は、ルカと言うらしい―の彼は不満げにそう呟いた。
「どこに行こうが俺の勝手だろ。それに親父と同じ場所に行ったらお前今度こそご臨終だぞ」
未だ入口で突っ立っているルカに「そこにいると邪魔だろ」と入室を促す。
「僕が死のうが生きようがお前に関係ないだろ…」
消えるようにか細く呟いたその声を、ランディは聞き逃さなかった。づかづかとルカに歩み寄ると、思いっきり胸ぐらを掴んで近くにあったソファへ投げ飛ばした。
「いいか糞ガキ、俺はお前みたいに人生悟ったように死に急ぐ奴が大っ嫌いだ。生きてりゃいつかいい事あるなんて綺麗事言うつもりはさらさらねぇが、何も成してねぇクセに死ぬなんてやつはクズ以下だ」
投げ飛ばしたルカを見下ろしながら、右手の親指を立てて下へ向けるランディは、心底嫌そうな顔でそう吐き出した。
その形相に言葉をつまらせるルカだったが、このままでは腹の虫が収まらないとばかりに反論する。
「そんなに嫌いならお前が僕を殺せばいいだろ」
「はっ、わざわざ言うこと聞いてやる義理はねぇな。そういうやつはわざと生かしてその生きざまを隣で笑ってやるのが俺の楽しみだ」
「というかお前だってガキだろ」
「んだとごらぁ!てめぇよか6年も生きてんだよ!!」
【マジか】と顔に出ているルカを見て『俺ってそんなに童顔なんだろうか』と内心ショックを受けるランディだったが、子供相手にムキになっても仕方が無いと判断し、次のアクションを起こす。
「でだ。なんでお前は俺たちのファミリーを、首領の首を狙ったんだ」
核心をついてきたランディの問いかけに直前までの勢いはどこへやら、ルカはその口を閉ざして応答には一切答えない。ここへ来る道中にも幾度となく尋ねたものの、その答えが返ってくることはなかった。
暫く無数に掛けられた時計から時を刻む音だけが鳴り響いていたが、このままではらちがあかないとランディは席を立った。
「まぁすぐに返事が返ってくるとは思ってねぇし、別にいいわ。お前の騒動のせいで昼飯食いっぱぐれて腹減ってんだ。なにか作るけど、食えないものとかないよな」
文句言っても聞かねぇけどな。と店の奥にあるらしいキッチンへと入っていくランディ。
「別に僕は腹なんか減って…」
ぎゅるる……
なんというテンプレ。なんというお約束。
『くっそ、いつもはこんな威勢良く鳴ったりしないのに……!』
絶対笑って馬鹿にしてくるぞ、と耳まで赤くしながら俯いたルカだったが、しかしいつまでたっても奴の嘲笑は聞こえてこなかった。
確かに聞こえたはずなのに、ランディは止めていた足を再びキッチンへと向けた。
「ガキは大人しく養われるのが仕事だっつの」
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